肝臓とは?
・ 肝臓は、「沈黙の臓器」「人体の化学工場」と呼ばれています。
・ 重さは1000~1500gで体重の約50分の1にあたり、全臓器中で最も重く最も大きな臓器です。2番目に重い心臓は200~300g、腎臓の重さは100~150gです。
・ 肝臓は右横隔膜の下、右肋骨の内側にあり、右上腹部のほとんどを占めています。下大静脈にぶら下がるようにして、心臓と右腎臓の間にはさまれるように位置しています。
・ 肝臓は、常時500種類以上の働きを同時に行っています。
・ 肝臓の中には、2500億個の肝細胞があり、肝細胞内で働く酵素は2000種類以上とされています。
・ 基礎代謝量の20~27%は肝臓が消費しています。これも全臓器中最大です。
・ 肝臓の働きは複雑かつ多岐にわたるため、機械やAIに代わりをさせることが難しい臓器です。そのため、臨床の現場ではまだ人工肝臓は作られていません。
・ そして、肝臓は人体最大の代謝を司る臓器でもあります。
・ 肝臓には動脈だけでなく、他の臓器にはない「門脈」というもう一つの流入血管があります。(正確には脳下垂体にも「門脈」はあります。)
・ 胃、小腸、大腸で吸収された栄養素は、門脈を通って肝臓に送られます。
・ 栄養素だけでなく、薬剤やアルコール、有毒物質なども消化管で吸収されて門脈を通り、肝臓で解毒された後で胆汁中に排出されるか、血流によって腎臓に運ばれ尿中に排出されます。
・ 便秘が続くことによって発生した腸内細菌からの有毒物質も門脈を通って肝臓に運ばれ、肝臓を直接的に障害する原因のひとつとなります。
・ こうしたことから、アルコールや多量の薬剤などをひかえることや、便秘を改善して腸内環境をととのえることは、肝臓をいたわることにつながります。
肝臓の働き:免疫
・ 肝臓には多くの機能がありますが、その中でも重要なもののひとつが「免疫」です。
・ 肝臓は、胃、小腸、大腸から体内に入ってきた大量の異物から身を守るためのいわば「防波堤」です。
・ 肝臓内には異物から体を守るための免疫細胞が多量に存在します。
・ 細菌やウイルス、真菌(カビ)といった異物の中には胃や腸をすり抜けて肝臓に到達してしまうものも多く、肝臓にはそうした異物を排除する免疫システムが備わっています。
・ 例えば、クッパー細胞は、組織内に入ってきた細菌やウイルス、真菌(カビ)を食べてしまう大細胞(マクロファージ)の一種ですが、全組織内のマクロファージの約80~90%は肝臓内に存在します。
・ がん細胞やウイルス感染した細胞を排除するNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の免疫力も肝臓が最大とされています。
・ 胃や腸から侵入した異物だけでなく、気管から侵入して血液中に入ってきた異物も肝臓内の免疫細胞によって攻撃されて排除されます。
・ これだけの免疫システムがととのっていることから、肝臓は異物から体を守るためにきわめて重要な役割を担っていることがわかります。
・ 肝硬変や肝不全などで肝臓の免疫システムが低下すると、とたんに感染に対して弱くなってしまいます。
・ そこまで肝臓が弱ってしまうと、免疫システムが全く作動しなくなり、ほんの少しの細菌やウイルスが侵入しただけでも生命に危険が及ぶことになります。
・ 新型コロナウイルス感染症に関する報告では、肥満の方は普通の体重の方に比べて集中治療室(ICU)への入室率が高く、死亡率も高いというデータがあります。
・ 肥満の方には脂肪肝や肝機能障害を抱えている人が多いため、肝機能の低下が免疫力低下を招き、新型コロナウイルス感染の重症化の原因となっている可能性も十分に考えられます。
肝臓の働き:解毒
・ 肝臓には多くの機能がありますが、その中でも重要なもののひとつが「解毒」です。
・ 肝臓はアルコールや薬などの有害物質を分解して、体に悪影響が出ないように無毒化します。
・ また、代謝の過程で発生した有害物質(代謝産物)を無毒化して、尿や胆汁とともに体外に排出させます。
・ 例えば、アルコールは肝臓においてアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドに分解され、さらにアセトアルデヒド脱水素酵素によって無害な酢酸に変換されています。
・ 肝臓が弱ってくると解毒機能が低下して、少量のお酒でもすぐに酔ってしまうようになります。解毒機能が低下すると、アルコール→アセトアルデヒド→酢酸への変換が進まず、アセトアルデヒドが体内に長くとどまることになるからです。
・ アセトアルデヒドは毒性が強く、頭痛、吐き気、顔面の紅潮、全身倦怠感などを引き起こします。
・ もうひとつ例をあげると、腸管内でタンパク質から有害なアンモニアが産生されますが、肝臓はアンモニアを尿素に変換して無毒化し、尿と一緒に体外へ排出させます。
・ 肝臓の機能が低下して、アンモニアが無毒化されないまま全身を回ると、アンモニアが脳に到達してしまって、意識障害を引き起こします。これを「肝性脳症」といって肝硬変末期の症状の一つです。
・ 肝硬変になって解毒の働きが低下してしまうと、アンモニア以外にも体内にさまざまな有害物質が大量に蓄積してしまうようになります。
・ 寝ても休んでも解消されない疲労が常に続き、身のおきどころがないような重い疲労感に悩まされることになります。
・ もうひとつ例をあげると、筋肉に蓄えられたグリコーゲンからエネルギーを得ると、乳酸に分解されます。
・ 乳酸と乳酸が作られる過程で発生する水素イオンの作用で筋肉のpHバランスが酸性になることが疲労の原因のひとつと考えられています。
・ 肝臓には乳酸を減らす働きがあります。乳酸からグリコーゲンに再合成して、エネルギーとして使えるように変換しています。肝臓の機能が低下すると、乳酸→グリコーゲンの変換も進まなくなります。
・ もうひとつ例をあげると、肝硬変になって肝臓の機能が低下すると薬剤の解毒ができず、副作用が強くなってしまうため、癌に対する抗がん剤治療を受けることができなくなってしまいます。
・ このように肝臓の機能が低下すると、代謝の過程で生じたさまざまな有害物質を無毒化して、尿や胆汁の中に排泄することができなくなってしまいます。
・ この結果、有害物質が全身を回ってしまうため、さまざまな症状を引き起こすことにつながっていきます。
肝臓の働き:代謝
・ 肝臓には多くの機能がありますが、その中でも重要なもののひとつが「代謝」です。
・ 「代謝」とは、栄養素を体が利用しやすい形に分解して合成する働きのことです。
・ 肝臓は「代謝」を行う最大の臓器です。
・ 肝臓は消化管から吸収された栄養素を使える形に作り直しています。
・ 食べ物は、胃や腸で消化液の働きによって消化分解吸収されて、「門脈」という血管を通って肝臓に運ばれます。
・ そして栄養素は肝臓で生命を維持するために必要な物質に作り変えられます。
・ コメやパンなどの炭水化物を摂取するとブドウ糖に分解され、ブドウ糖は肝臓でグリコーゲンに変換されて貯蔵されます。
・ 体内でグリコーゲンを貯蔵できるのは、肝臓と筋肉だけです。
・ 肝臓内や筋肉内のグリコーゲンが満杯の場合は、ブドウ糖は肝臓内で中性脂肪に変換されて、肝臓脂肪、内臓脂肪、皮下脂肪として蓄積されます。
・ 肉、魚、卵、大豆などのタンパク質は小腸でアミノ酸に分解されて、肝臓で体に必要なタンパク質に合成されます。
・ 膠質浸透圧によるむくみを調節しているアルブミンというタンパク質は肝臓で合成されています。
・ 肝硬変の場合、肝臓の代謝機能が低下しているため、血液中のアルブミン濃度が低下して、手足がむくんで(浮腫)、腹水や胸水がたまります。
・ サラダ油や肉の脂身などの脂質は、小腸で脂肪酸とグリセロールに分解されて、肝臓で細胞の構成成分として重要なリン脂質や中性脂肪、コレステロールなどに合成されます。
肝臓の働き:糖新生
・ 肝臓には多くの機能がありますが、その中でも重要なもののひとつが「糖新生」です。
・ たとえ飢餓状態になっても、低血糖にならずに血糖値を維持して生き延びることができるのは、肝臓の「糖新生」という働きのおかげです。
・ この「糖新生」の仕組みを理解することは、肝臓から脂肪を落とす仕組みを理解することにつながります。
・ 私たちの体は、長時間の絶食に耐えながら生きていけるようにできています。
・ 食事をとらずに空腹状態が続き、細胞のエネルギーが枯渇すると、まず肝臓と筋肉に蓄えられているグリコーゲンと呼ばれる物質がブドウ糖に変換され、ブドウ糖からエネルギーが作られます。
・ 次にグリコーゲンが消費されたことがシグナルになって、グリコーゲンが完全になくなる前から体脂肪、筋肉のそれぞれがブドウ糖に変換されます。
・ 肝臓の細胞内で多くの酵素が働いて、体脂肪や筋肉をエネルギー源であるブドウ糖に変換しています。
・ グリコーゲンは肝臓と筋肉しか蓄えられないという特徴があります。
・ グリコーゲンが100%蓄えられている状態であれば、理論上グリコーゲンだけで24時間以上のエネルギーを賄うことができることになります。
・ 肝臓は絶食時に脂肪や筋肉からブドウ糖を作り出しています。
・ 絶食時に体に貯蔵した栄養をブドウ糖に変換して、細胞のエネルギー源にしているのも肝臓の重要な働きです。この働きを「糖新生」といいます。
・ 体に食べ物が入ってこないと、肝臓や筋肉のグリコーゲンがブドウ糖に変換されます。
・ 体に食べ物が入ってこないと、肝臓やお腹の中性脂肪がブドウ糖に変換されます。
・ グリコーゲンの消費なしに体の脂肪は減らないのです。
・ グリコーゲンの消費が始まると、脂肪の消費が始まります。
・ 「糖新生」の仕組みは、健康的に減量したい方は必ず理解しておかなければならないポイントです。
・ 「糖新生」の仕組みを理解し、血糖を上昇させない食べ方やグリコーゲンを貯める筋肉を大きくする筋トレの実践が脂肪を減らすことにつながります。
肝臓の検査:フィブロスキャン
・ 2025年7月1日から天神橋みやたけクリニックでは、肝臓の検査として「フィブロスキャン」を始めました。
・ フィブロスキャンとは、「肝臓の硬さ」と「肝臓の脂肪の量」をチェックする検査です。
・ 肝臓は体の中で最も大きく、再生能力に優れた臓器であるため、病気が進行していても、なかなか症状が現れません。
・ そのため、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。
・ 自分では不調を感じていなくても、健診などで肝機能異常や脂肪肝を指摘された場合は、フィブロスキャン検査で肝臓の状態を調べることをおすすめします。
・ フィブロスキャン検査では、検査結果が数値で表示されるため、治療前後の比較や、経過観察による病態改善などの評価に用いられています。
・ フランスで開発され、世界100か国で使用されています。
・ フィブロスキャン検査では、「肝臓の硬さ」と「肝臓の脂肪量」がわかります。
・ 肝臓の硬さ:線維化(正常/経度→中等度→高度→肝硬変)
肝臓の硬さの度合を測定
肝疾患進展度や肝硬変の検査として有用
結果はkPa(キロパスカル)で表示
・ 肝臓の脂肪量:脂肪化(正常→経度→中等度→高度)
肝臓の脂肪量の度合を測定
脂肪肝の検査として有用
結果はdB/m(デシベルパーメーター)で表示
・ 右わき腹の表面に振動と超音波を伝える特殊なプローブをあてて、その振動と超音波の伝わり方から肝臓の硬さや肝臓の脂肪量を測定します。
B型肝炎について
- 慢性肝炎なのか
- 肝硬変なのか
- 肝癌のリスクはあるのか
- 治療の必要はあるのか
- 放置しておいていいのか
あなたの現在の病状を知っていただきます。
特に、B型肝炎ウィルス量(HBV-DNA量)が高値であることが危険であることを知っていただきたいと考えています。B型肝炎ウィルス量(HBV-DNA量)は急に上昇することもあります。
HBs抗原陽性のまま放置していて、大きな肝癌が見つかった人もいます。
私は肝臓専門医であり、消化器病専門医であり、前職の大阪警察病院で常に100人以上のB型肝炎患者さんをフォローしていましたのでご安心ください。当院で評価した結果として、通院については、病状に応じて1-2か月に1回、3か月に1回、6か月に1回というケースに分かれます。
当院で定期的に血液検査や画像検査を受けていただけます。
画像検査は主に腹部超音波検査(腹部エコー)で、10-15分程度で終わります。
また、治療として核酸アナログ剤服用やインターフェロン投与が必要な場合は、丁寧に時間をかけて説明させていただきます。
あなたの病状を知ることは大事なお子さんのためでもあります。感染予防としてB型肝炎ワクチンもあります。
ご希望があれば、ワクチンについても説明させていただきます。これまでに「あなたはB型肝炎です」と言われたことのある方は、あなたのために、そしてあなたの大事な人のためにもぜひ一度ご来院ください。当院はあなたの力になりたいと思っています。
B型肝炎ウィルス検査について
全国の自治体でB型肝炎やC型肝炎の肝炎ウィルス検診が推奨されています。(一部の自治体では費用補助も行われています)B型肝炎陽性の人(HBs抗原陽性の人)は日本の全人口の約1%程度と言われています。
つまり、日本には約150万人のB型肝炎患者さんがいると推定されます。そのうち、医療機関に定期的に通院している方はごく一部です。
B型肝炎の一部はB型慢性肝炎に移行します。
B型慢性肝炎の一部はB型肝硬変に移行します。
B型慢性肝炎やB型肝硬変から肝細胞癌が発症します。
しかしながら、普段医療機関に通院していないB型肝炎キャリアの人(HBs抗原陽性の人)から「突然に」進行した肝癌(肝細胞癌)が発症する場合があります。この発癌にはB型肝炎ウィルス量(HBV-DNA量)が関係しています。B型肝炎ウィルス量が高値であればあるほど、肝癌が発癌するリスクが高いのです。
「HBs抗原陽性であってもB型肝炎キャリアであるから自分は大丈夫」と考えてきた患者さんは注意が必要です。
万が一、HBs抗原陽性であることが明らかになった場合は、一度血液検査でB型肝炎ウィルス量と2つの腫瘍マーカー(AFPとPIVKA-Ⅱ)を測定し、B型肝炎のマーカーを確認し、現在の肝機能と線維化の程度を評価し、腹部超音波検査(腹部エコー)を受けて、肝癌発癌のリスクを評価することをお奨めします。
つまり、HBs抗原陽性になった場合、第一にお奨めする検査は血液検査とエコー検査です。
血液検査
項目は以下の通りです
HBe抗原 HBe抗体 HBs抗体 HBV-DNA量(リアルタイムPCR法) HBVジェノタイプ(B型肝炎ウィルスの遺伝子型) 血小板(線維化の程度を評価する目安になる) AST ALT ALP γGTP
ビリルビン 総蛋白 アルブミン コリンエステラーゼ 総コレステロール AFP(腫瘍マーカー)
PIVKA-Ⅱ(腫瘍マーカー)
腹部超音波検査(腹部エコー)
肝癌を疑う異常(肝腫瘍)がないか調べる
そして、B型肝炎ウィルス量の数値によりますが、自覚症状がない場合でも3か月に1回の定期受診をお奨めします。この場合は、3か月に1回の血液検査、6か月に1回の腹部超音波検査を行います。
万が一、皆さんが肝炎ウィルス検診でHBs抗原が陽性であった場合、当院では引き続き上記の血液検査と腹部超音波検査を行って、十分に評価したうえで、その後も万全の外来フォローをすることをお約束します。
仮に、入院が必要な病状であった場合でも、連携病院の消化器内科(大阪警察病院、北野病院、大阪市立総合医療センター、大手前病院、済生会中津病院など)に速やかに紹介することができます。
私は前職(大阪警察病院消化器内科)の勤務8年間を通じて、常時100人以上のB型肝炎患者さん、150人以上のC型肝炎患者さんを定期的に外来フォローしていました。
実績についてはどうぞご安心下さい。
肝炎ウィルス検査を受けておられない方は、この機会にぜひ一度御検討下さい。
当院はいつでも皆さんの受診をお待ちしております。
















